ある家族のお話です。父親が生きているときには,長男,二男ともに仲が良く,長男は父親が営む商店を手伝い、二男は独立してサラリーマンとして働いていました。父親が「商店を引き継いでくれる長男に商店を含むすべての財産を譲りたい。」と言ったときには二男は文句ひとつ言わず,その後,父親によって、長男に全財産を与えるという遺言が作成されました。
しかし,父親が死んだ途端,二男は「長男に全財産を与えるという遺言には従えない。」と言い出しました。長男はびっくりです。しかも、二男は、長男に対し,遺留分減殺請求をし,遺留分である4分の1をよこせと言ってきました。
このような二男の請求は認められるのでしょうか?
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財産をどのように子どもたちに分けるかは基本的には親の自由です。遺言書に誰に何を与えるか,その旨をきちんと明記しておけば,その意思が優先されます。
しかし,ここで注意したいのが「遺留分」という制度です。
「遺留分」というのは遺言によっても自由に処分できない財産の割合のことで,相続人間の不公平を防止するため,民法によって,一定の相続人が最低限度の財産を相続できることが定められています。
遺留分に反した遺言がなされた場合には,遺留分権利者が遺留分減殺請求をすれば,その分は遺留分権利者が取得することができるとするものです。
よって,相続人が揉めないようにするためには,遺留分を侵害しない形で遺産分割を考える必要があります。もし,どうしても遺留分を侵害する遺言を書く場合には,事前に家族でしっかりと話し合いをし、さらに、遺留分を侵害される相続人には,遺留分の放棄をしてもらうことです。
相続の放棄は被相続人が生きている間にはできませんが,遺留分の放棄は家庭裁判所の許可を得れば放棄することができますので,遺留分を侵害する内容の遺言に従って遺産分割をしたいのであれば,家庭裁判所で遺留分放棄の許可を取っておくべきです。
このケースでは、長男は二男に対して、約束と違うと抗議しましたが,遺留分の放棄は口約束だけではだめですので,結局は二男の遺留分減殺請求に応じざるを得ませんでした。
人の心は本当に移ろいやすいものなのです。いくら仲の良かった兄弟とはいえ,お金が絡むと話は別です。おそらく,父親もこのように兄弟が仲たがいしてしまうとは思ってもみなかったと思います。
よって,争う余地がないように,親が子どものために,きちんとした遺言書を残し,遺留分を侵害する内容の遺言であれば生前に遺留分の放棄まで責任を持ってやっておくことが親の義務であると言っても過言ではありません。
そして,そのためには,財産をしっかりと把握して,その分け方について,生前にしっかりと考えておくことが必要なのです。
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